masayuki takayanagi archive 2

B-28

NDUの最後の記録

1,800円(税込1,980円)

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 本作は、高柳昌行率いるニュー・ディレクション・ユニットのレギュラーコンサートvol.57(1984年9月24日、於渋谷ジァン・ジァン)の第二部の演奏を、ノーカットで収録したもの。高柳の弟子でもある飯島晃とのツイン・ギターにパーカッションとして山崎弘(現・山崎比呂志)が参加する形での演奏である。

 この三人の編成での演奏記録としてはもう一枚、ほぼ一年前(1983年8月14日)の明大前・キッド・アイラック・ホールでのライブ録音『mass hysterism』がある。『mass hysterism』が演奏冒頭の山崎弘のソロからずっと全力疾走(40分にもわたって切れ目なし!)を貫くのに対し、本作での演奏は「improvisation 3」も「improvisation 4」のどちらも三者三様に遠慮がちな様子で始まり、しかしじわじわと、いつの間にか聴く者を引きずり込んで行ってしまうような妙なる狂気と迫力に満ちた演奏が繰り広げられる。もちろん恐怖を指向した演奏ではないけれども、まるで、何か小さな違和感を感じるなと思ったらあっという間に狂気と恐怖に取り囲まれているような感覚を、強く覚える演奏である。

 ちなみに飯島晃は、高柳の代理としてギタースクールで教鞭を取っていたこともあるほどの高弟だけに、左チャンネルから聴こえてくる飯島のギターはときに師匠高柳と左右で一本のギターに聴こえるほどだが、ときに高柳のギターとチェーンソウや電気ドリルで斬り結ぶような場面があったり、あるいはまるでまったく知らない言語でとつぜん話しかけられたり、聞いたことのない唸りや雄叫びを感じさせる場面があったり、その強烈な個性に戦慄させられる。高柳より若くエレキ・ギターの扱いが巧みだったりエレクトロニクスへの理解が深かったりするからだろうか、師匠高柳を超えていると感じさせられる瞬間も少なくない。

 その二本のギターの格闘を、山崎のパーカッションが時に底から押し上げ時に上から引っ張り上げ、あるいは音数の少ない静かな場面では緊張感の持続を担ったりなど、見事に支えている。

 加えて、本作の演奏では、ギター二本と打楽器の音の洪水の向こうから、テープを用いたサウンド・エフェクトの音が聴こえてくる。このサウンド・エフェクトの選択や切り込んでくるタイミングがまた絶妙で、聴き手の耳に深く突き刺さる。

 このサウンド・エフェクトも含めた三人の演奏を集中して聴くと、音程もリズムも判然としない音響の塊から、独特な音楽的うねりを強く感じさせられる。高柳の長年の聴き手でなくとも、またフリー・インプロヴィゼーションの深い馴染みがなくとも、一度聴き始めたら容易に引き返せないような、不思議な音楽の力を感じるはずだ。

 ところで、高柳は北米発祥のジャズという音楽やジャズ・ギターの追求から飛躍して、「ニュー・ディレクション」という旗印の元、グループ名や楽器編成を変えながらフリー・ジャズ、フリー・インプロヴィゼーションの可能性を追求してきた(その一方で、「セカンド・コンセプト」や「アングリー・ウェーヴス」などの活動でジャズの追求も続けていたわけだが)。

 その高柳が最終的にたどり着いたのは、高柳ただ一人で従来のギターの奏法すら破壊していった「アクション・ダイレクト」と名付けられた演奏活動だ。実は本作の次のコンサートであるレギュラーコンサートvol.58がニュー・ディレクション・ユニットとしての最後のライブであり、vol.59からはアクション・ダイレクトのでライブとなる。

 そこから考えると、ニュー・ディレクションとしての活動の最終形態がパーカッション以外はギターのみとなり、さらにテープのサウンド・エフェクトを用いた音響の構築となっていたことは、たいへん興味深い。前述の通り高柳の音楽活動はジャズとジャズ・ギターの追求から始まったわけだが、フリー・ジャズという方法を追求した先にそれまでほとんど誰も到達したことがないフリー・インプロヴィゼーションという音楽の追求=アクション・ダイレクトへの発展があった(高柳の別の言葉を借りれば、「汎音楽」「汎ギター」の追求への発展と言ってもよいかもしれない)。本作は、そのアクション・ダイレクトの発想の源泉が湧き出た瞬間を捉えた、貴重な記録であるとも言えるのではなかろうか。

 なお、ライブ録音の際の録音レベルの設定が原因で、本作には音が歪んだ箇所がいくつかあるが、大音量で再生すると歪んだ箇所がさほど気にならなくなる。再生環境やご自分の耳の調子も考慮しつつ、ぜひなるべく大音量でお聴きいただきたい。(2020/9 青木 修)

<データ>

高柳昌行(g)、飯島晃(g)、山崎弘(dr, per)

new direction unit – regular concert vol.57
1984年9月24日/渋谷ジァン・ジァンにて録音

  • improvisation 3 (20:39)
  • improvisation 4 (22:22)

JAN 4539113105228

<注意>
  • 本作に解説/写真はありません。パッケージはマキシケースとなります。
  • 本作は録音レベルオーバーによる音の歪みが複数箇所にございます。予めご了承願います。

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