「解体的交感」の3ヶ月後、高柳・阿部はドラムに山崎を加えてニュー・ディレクションを再編した。
ニュー・ディレクション(トリオ)の唯一の記録! (モノラル)
<曲目>
- JAZZ BED 1st (27:47)
- JAZZ BED 2nd (31:12)
NEW DIRECTION
高柳昌行(el-g)
阿部薫(as、bscl、etc)
山崎弘(ds、perc)
1970年9月録音
※本作はポータブルモノラルレコーダーで録音されたカセットテープをマスターとしております。あらかじめご了承ください。
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高柳昌行の愛聴者なら、第一期ニュー・ディレクション(吉沢元治、豊住芳三郎とのトリオ)を1970年3月に解散したのち、3〜4月の第二期ニュー・ディレクション(高木元輝、豊住芳三郎とのトリオ)を経て、5〜9月にかけて阿部薫とのデュオ活動があったことをご存知と思う。これが第三期ニュー・ディレクションに当たるわけだが、この共演の模様は、『解体的交感』(新宿厚生年金会館小ホールでのライブ録音)、『集団投射』『漸次投射』(渋谷ステーション70でのライブ録音)という三枚の盤に記録されている。
そして、阿部薫との共演は1970年のうちに解消されてしまったが、阿部薫との共演が完全に解消される前に、実は次なる活動の萌芽があったのである。それが、高柳・阿部にドラムの山崎弘(現・比呂志)を迎えたトリオでの活動だ(第四期ニュー・ディレクションに当たる)。
トリオでの活動、と言っても、記録に残っているのは9月27日の池袋ジャズベッドや10月4日の高崎読売ホールでのライブなどで、演奏回数は決して多くはない。しかしそのうち池袋ジャズベッドでの演奏が、モノラルのラジカセによる録音で奇跡的に残されていた。それが本作『ライヴ・アット・ジャズベッド』である。
高柳は翌1971年には3月に第五期ニュー・ディレクション(山崎弘とのデュオ)としての活動を始め、それが6月にはニュー・ディレクション・フォー・ジ・アーツ(森剣治、山崎弘とのトリオ)へと発展していくのもご存知のとおりだが、そうした流れを現在の目で俯瞰してみると、本作は高柳のニュー・ディレクションとしての活動の中の失われたパズルのピース—しかもたいへん重要な—であると言ってよいだろう。
本盤に収められた演奏を聴くと、高柳昌行と阿部薫という日本のフリー・ジャズの歩みを強力に押し進めた二人の出会いが、“フリー・ジャズのスター”二人の単に一時的な共演ではなく、ひとつの核を持った演奏活動に昇華して行っただろうことが明確に見て取れる。阿部薫がその強烈な個性を発揮しつつも高柳、山崎と溶け合うような、稀有な音を聴かせてくれるのである(その意味では、致し方ない事情があったとはいえ数回の共演だけで高柳と阿部が別れてしまったのは、たいへん残念なことだ)。
なお、本盤は先述のとおりモノラルのラジカセで録音されたものだが、録音状態もテープの保存状況もよく、またマスタリングも何度かやり直しており、演奏当日の臨場感を十二分に伝えてくれる仕上がりとなっている。高柳昌行ニュー・ディレクションの歩みを追いかけている愛聴者には、ぜひ聴いていただきたい一枚である。(2020/4 青木 修)