高柳昌行は阿部薫と出会い、「今までのグループを即刻解散させ」(文遊社『阿部薫2020』所収・斉藤安則「もう一つの解体的交換」)、阿部薫とのデュオ演奏のみの活動を開始した。1970年5月のことだ。
高柳と阿部とを引き合わせた音楽評論家・間章とのすれ違いや確執などから、高柳・阿部のデュオ活動はわずか半年で終焉を迎えたが、その間にかの『解体的交感』というアルバムが残されたのは、周知のとおり。
この『解体的交感』は長らく幻のアルバムとして、一部の高柳・阿部ファンのみに(それも多くはカセットテープにコピーされた音源で)聴かれていたが、2000年を過ぎたころからCDでの再発、さらに良質のオリジナル版からマスタリングされたLPとCDが再発され、録音から32年の時を経て多くの人に聴かれるようになった。
そこからさらに十数年を経た2018年、たまたま高柳家の引越しを手伝っていたJINYADISCの斉藤安則は、高柳の遺品のオープンリール・テープの中に、高柳・阿部による演奏のテープを見つける。
斉藤はすでに古いジャズ雑誌の記述から、高柳・阿部のデュオ演奏として、先述の『解体的交感』のほかに、当時の高柳のホームグラウンドだった渋谷〈ステーション '70〉に二日分(二ステージ)の録音が残されていることを知っていた。その録音テープが、とつぜん目の前に現れたというわけだ。
そのうちの一本は、すでに『STATION '70』(JINYADISC B-33)として発表済み。もう一本のテープが、本作である(『解体的交感』の少し前の録音)。
本作の元となる音源は、「高柳がリー・コニッツをエアチェックしたテープの残りわずか部分に通常の1/2の速度で録音されて」いた(本作ライナー・ノーツより)。録音状態は非常に悪かったが、高柳昌行が修正指示などを記したメモを遺していたため、それにできるだけ従い、サウンド・エンジニア長尾優進により、可能なかぎりの復元が行われた。
冒頭にも記したように、高柳昌行は阿部薫の才能を非常に高く評価していた。本作は、背景をなにも知らずに聴いても1970年当時のフリー・ジャズ(高柳言うところのリアル・ジャズ)の最高の演奏のひとつとしてとても刺激的であるわけだが、『解体的交感』『STATION '70』と並び、高柳の阿部への評価を現実的にかつ音楽表現として表したものとしての価値も高いと言えよう。
高柳と阿部は、デュオ活動を終えてからも親密な交流を続けていたことが、近年の調査でわかっている(本稿冒頭に引いた「もう一つの解体的交換」でも、その辺りの話に触れている)。
すでに『解体的交感』に於いて、高柳・阿部のデュオ演奏のすごさは認知されているわけだが、続く『STATION '70』、そして本作ではその「すごさ」への認識をさらに補完するとともに、高柳と阿部の(実質的には短かったが終わったあとも実は潰えていなかった)音楽的信頼関係にも思いを馳せられると思う。
ぜひ本作を聴いて、「もう一つの解体的交感」の最後に書かれた——
「解体的交感」はまだまだ続いているのだった。
という一文の意味するところを、噛み締めていただきたい。(2024/3 青木 修)
<曲目>
- Mass Projection 39:50
NEW DIRECTION
高柳昌行 Masayuki Takayanagi (el-g)
阿部薫 Kaoru Abe (as, etc)
1970年5月〜7月、東京にて録音
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